第3回によせて 愛と人間

9 2, 2011

ソナタ全曲演奏会を始め、あっという間に3回目になってしまいました。今回のテーマは「愛」です。

ベートーヴェンのソナタに惹かれる最も大きな理由は、音から出る究極の感情と人間性が、どのソナタからも要求されるからです。

今回の9番と10番、また27番のソナタでは、「対話の形式における2つの原理」のぶつかり合い、特に27番に関しては「頭と心の葛 藤」が主体となっていると、ベートーヴェンが言っていたそうです。正反対の要素がぶつかり合っていますが、これは人間の中の二面性、または他人との喧嘩を 表しているのでしょうか。私には、純粋な愛情表現の中に、許されない恋の切なさ、自分との葛藤や、人生の道のりに生じた壁にぶつかっているベートーヴェン が見えてきます。人間の誰にでもある「上機嫌さ」、「優しさ」、「戯れ」などの感情が率直に表現されるのはベートーヴェンならではの魅力だと思います。こ の一見シンプルな3つのソナタの1音1音に心を込めて、かつ自然に演奏するのは私にとって新たな課題です。

休憩の後は「Sonata quasi una fantasia(幻想曲風に)」とベートーヴェン自身が表記した2つのソナタです。このquasi una fantasiaというのはどういう意味なのでしょうか?ただただソナタ形式から少し離れたという意味ではなく、曲の内容を考えると、ロマン派的な幻想的 想像も必要とされると思います。13番の即興性、14番の人の世からかけ離れた神秘、爆発的な感情からは、想像の世界、宇宙的な空間さえ感じられます。ま た、この2つのソナタは女性のために作曲されていますが、女性的な旋律というよりは、ベートーヴェンが女性に慰めを求めているかのような、甘い感情がとこ ろどころに染み出ているようです。

人生の中でたくさんの葛藤があっても「愛」によって人間は救われるというメッセージが音楽から伝わってくるような気がします。音楽に対する愛、人間に対する愛、自然に対する愛、純粋に気持ちを表すことの大切さをベートーヴェンはいつも教えてくれるのです。