チェロとピアノのためのソナタ第3番 Op.69 第1楽章 初稿

29/03/2020

今回の石坂団十郎さんとのツアー第2弾で、チェロとピアノのためのソナタ第3番Op.69を取り上げますが、第1楽章の初稿も演奏させていただきます。この初稿と本来出版されたものとの違いは、ハーモニーやテーマなどではなく、主にチェロとピアノのバランスです。この作品でチェロの演奏する音域の巾や、チェロとピアノが対等に演奏することの彼の研究がこの初稿との比較でよくわかると思います。伴奏の部分をどちらに回すか、また、和音だったところを分散和音にさせることで緊張感が全然違います。常に自筆譜はかなり書き直しが目立つことは有名ですが、やはりこのソナタでもその葛藤が譜面に表れています。下記数か所の比較です。

こちらの初稿の展開部の部分では、ピアノが右手で分散和音を弾き、チェロとピアノが一小節ごとに対話します。

→分散和音はチェロが激しくフォルティシモで弾き、対話はピアノが受け持ち、右手は16部音符のバラしたオクターブになっているため、動きが増します。

クライマックスのクレッシェンドは初稿ではリズミカルな和音の伴奏ですが…

→分散和音によって緊張感が持続される上、異音を含む内声が強調されるため、切なさが増します。

初稿。ここはコーダの前ですが、全く音が違います。

→こっちにして…あーよかった、という感じです。コーダでも、初稿ではピアノの装飾的なパッセージが全く抜けています。